認知症に対する知識がないまま、ちょっと様子を見て来る気分で帰省した主人でしたが、その日の夜「悪いけど直ぐに来てくれないか。とにかく判断が出来ない。」と電話がきました。私はどういうことなのか見当もつかないまま翌朝新幹線に乗り込みました。実家の外見は特に変わった様子は見られません。少し雑草が目立ちましたがそれ程でもありません。主人が玄関を開けると何とも異様な臭いが漂っていました。これでもずいぶん臭いが取れてきたんだと言うのですが目はチカチカするし吐き気はするし玄関から一歩入るのに勇気がいる程の状態でした。そして居間のコタツに入っている義母を見て唖然としました。東北だったらともかく中国地方の9月はまだまだ蒸し暑いのですがコタツに電気が入っているのです。着ている服はどう見ても冬物のまま、たぶん冬以降風呂に入っていないであろう身体、髪はガチガチに固まっていて顔も煤けています。そして台所で私を待っていたのはゴキブリの大運動会でした。ゴミの山に群がるゴキブリの大群、こんな光景は初めてで背筋が凍り叫び声さえ上げられません。混乱する頭をとにかく冷静に整えてとにかく風呂場を洗い湯を張り着替えを買いに行きました。義母は自分の着替えがどこにあるかが判らなくなっていましたが勝手に箪笥を開ける事もコタツの電気を切る事も嫌がりました。そしてコタツに入れた足がピカピカと濡れていました。「暑いから酷い汗をかいているよね」と主人と話していましたが後になってこれは汗ではなく尿である事が発覚するのです。そして臭いの原因はこれだけではなかったのです。

主人の母は、「あんたは呆ける事はなかろう、しっかりしとるけんね。」と周囲もあきれるほどしっかりした人で私たちも「認知症」などと考えることもありませんでした。

平成18年9月に「認知症」と診断されました。離れて暮らしている私たちは最後の登場で義母の女学校時代の同級生の方々、ご近所の方々、民生委員の方には本当にお世話になりました。主人が実家へ向かうまでの間に近所の医者に連れて行き診察を受けていました。民生委員の方は食事を運んでくださいました。近所の内科医より「認知症」の可能性を示唆されましたが、私たちは認知症の専門医が精神科である事を知りませんでした。近所の精神病院へ自ら行くとはとても思えなく困っていたところ同級生の方々が一緒に行けば大丈夫よと言ってくださり、義母の両脇を固めるようにタクシーに乗り込み静かに病院へと向かったのです。

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