認知症病棟を備えた精神病院は実家の近くにあります。先日受診した内科医には入院は必至と言われていましたし義母の旧友の方々も非常に協力的です。それにすっかり甘えて私は一度東京へ戻る事にしました。

私たちが事務所を空ける間の体制を整え、顧客様になるべく迷惑がかからぬ様手配をしなくてはなりません。そして義母が病院へ行く前にしておく事がありました。財産にあたる物の確保です。入院させてからそっとすれば良いと思われるかも知れませんが、義母の財産ですから承諾を得ておきたいという気持ちがありました。抵抗された時、悪い息子になっては気の毒ですので私が悪嫁役でいきなり箪笥をあけました。

シエー。ゴキブリの巣になっていました。震える声で「お義母さん、権利書とか見つけたら東京で預かるね。これから出てきた書類を見せるから大切な書類かいらない書類か分けてください」と言いました。抵抗されるかと思いきやすんなり了解してくれました。そこで封筒に入った電話料金やつまらなそうなダイレクトメールを束にして渡しました。義母は一枚ずつ丁寧に開封し中をじっと見ています。その間に大切そうな書類を主人に渡して確認してもらいました。いつ洗ったのか理解不能な衣類とダイレクトメールなどの書類が同じ引き出しに同居していました。義母はぜんぶ大切な書類だから捨ててはいけないと私が預けた封筒を全部取っておくようにと言いました。義母の答えに認知症という病気の姿を見たような気がしました。主人から託された書類を手に私は東京へ、でも二日後私は舞戻り実家でゴキブリと大格闘しているのでした。

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